元禄二年九月四日〔1689.10.16〕
大垣の庄に入ば、如行が家に入集る。前川子、荊口父子、其外、したしき人々、日夜とふらひて、蘇生のものに、あふがごとく、且、よろこび、且、いたハる。
○四日 天気吉。源兵ヘ、会ニテ行。
この日、家老の戸田如水亭でも会があったし(←「如水日記」)、曾良日記にもみられるように大垣藩士・浅井左柳(源兵衛)の左柳亭でも会があたようである。
〔如水亭/六吟一巡〕
籠り居て木の実草の実拾はばや 芭蕉
御影尋ねん松の戸の月 如水
(以下略)
〔如水亭/三吟三つ物〕
それぞれに分けつくされし庭の秋 路通
ために打ちたる水の冷やか 如水
池の蟹月待つ岩に這ひ出でて 芭蕉
〔左柳亭/十二吟歌仙〕
はやう咲く
初折表
はやう咲九日も近し宿の菊 芭蕉
心うきたつ宵月の露 左柳
新畠去年の鶉の啼出して 路通
雲うすうすと山の重り 文鳥
酒飲のくせに障子を明たがり 越人
なをおかしくも文をくるはす 如行
初折裏
足のうらなでゝ眠をすゝめけり 荊口
年をわすれて衾をかぶりぬ 此筋
二人目の妻にこゝろや解ぬらん 木因
けづり鰹に精進落たり 残香
とかくして灸する座をのがれ出 曾良
書物のうちの虫はらひ捨 斜嶺
飽果し旅も此頃恋しくて 柳
歯ぬけとなれば貝も吹かれず 蕉
月寒く頭巾をあぶりてかぶる也 鳥
あかつき替わる宵の分別 口
一棒にあづかる山の花咲て 通
塩すくひ込春の糠味噌 人
名残表
万歳の姿斗はいかめしく 因
村はづれまで犬に追わるゝ 嶺
はなし聞行脚の道のおもしろさ 筋
二代上手の医はなかりけり 香
揚弓の工するほどむつかしき 良
烏帽子かぶらぬ髪もうすくて 行
冬籠物覚ての大雪に 柳
茶の立ちやうも不案内なる 鳥
美くしう顔生付物憂さよ 人
尼に成べき宵のきにぎぬ 通
月影に鎧とやらを見透して 蕉
萩とぞ思ふ一株の萩 口
名残裏
何事も盆を仕舞て暇に成り 筋
追手も連に誘ふ参宮 良
丸腰に捨て中なか暮しよき 香
ものゝわけ知る母の尊き 因
花の陰鎌倉どのの草まくら 行
梅山吹にのこるつぎ歌 嶺
初折裏
足のうらなでゝ眠をすゝめけり 荊口
年をわすれて衾をかぶりぬ 此筋
歯ぬけとなれば貝も吹かれず 蕉
月寒く頭巾をあぶりてかぶる也 鳥
飄々として、良いですね。私位の年になると、「そのとおり」と声をかけたくなります。このような俳味のある歌仙、時代を超えて楽しめます。