《おくのほそ道》六月十日 〔072〕

羽黒を立て、逈が岡の城下、長山氏重行と云、もののふの家にむかへられて、俳諧、一巻有。左吉も、共に送りぬ。

曾良随行日記)

〇十日 曇。飯道寺正行坊入來、会ス。昼前、本坊ニ至テ、蕎切・茶・酒ナド出。未ノ上刻ニ及ブ。道迄、円入被迎。又、大杉根迄被レ送。秡川ニシテ手水シテ下ル。左吉ノ宅ヨリ翁計馬ニテ、光堂迄釣雪送ル、左吉同道。々小雨ス。ヌルヽニ不及。申ノ刻、鶴ヶ岡長山五良右衛門宅ニ至ル。粥ヲ望、終テ眠休シテ、夜ニ入テ発句出テ一巡終ル。

一行(佐吉=露丸も同道)は、鶴岡の城下に佐吉の縁者(いとこ?)、長山五郎右衛門氏重を訪ねます。

羽黒山を旅立つ前、「蕎切・茶・酒ナド出」というもてなしでした。疲れも残る曾良としては「翁ばかり馬にて!」と不満顔ものぞかせながら、重行邸では、「粥」を所望し、食後は仮眠です。
粥に鶴岡名物「民田茄子」(丸い小なすび)の漬け物がでたようです。藤沢周平ファンならご存知、海坂藩の名物でもあります。

民田茄子(みんでんなす);

http://www.nikkoseed.co.jp/newmindennasu/sub61.htm
http://www.isagoya.com/fujisawa_syuuhei/fujisawa_syuhei.htm


「夜ニ入テ発句出テ一巡終ル。」は、俳諧書留に記された歌仙の冒頭の4句ことだろう。

めづらしや山をいで羽の初茄子        翁
蝉に車の音添る井戸             重行
絹機の暮閙しう梭打て            曾良
閏彌生もすゑの三ヶ月           露丸