追記:3〔伏せられた文人追憶〕

「室の八嶋」にも実方の歌が、あったことは気がついていたのですが、ふれませんでした。芭蕉はこの安積沼でも実方の故事を踏まえながら、実方の名前はあえて出していません。そしてここでも伏せられていた実方への思いは、いずれ別の箇所で登場することになります。こうした伏せられた文人――西行や能因など――の扱いは、「おくのほそ道」を短編ながら多層的なものにしている、しかけのようです。