追記〔秋の暮〕

「秋の暮」の対は、「春の暮」。以下は、「ほそ道」三日目、室の八嶋を訪れた時の芭蕉の句です。

糸遊に結つきたる煙哉
あなたふと木の下暗も日の光
入かゝる日も程々に春のくれ
鐘つかぬ里は何をか春の暮
入逢の鐘もきこえず春の暮

「ほそ道」本文に芭蕉はこの地での句を記していませんが、曾良が「俳諧書留」に残していました。
(なお、三句目は、“入かゝる日も糸ゆふの名残かな”の中七と下五を直したものです。)

この句の注に、
「春の暮」は江戸時代初期の『山之井』などでは暮春であるが、『産衣』には「大暮にはこれなき也。時分の暮なり」とし、次第に春の夕暮れにも用いられた。---と、あります。(『松尾芭蕉集1 全発句』日本古典文学全集70/小学館/1995.7)

ところで、八嶋でのこれらの句をどうして本文にいれなかったのか、たっぷりと書かれた楸邨の解説をもう一度読みたいのですが、講談社学術文庫加藤楸邨芭蕉の山河』数ヶ月前、JR車内に内に置き忘れてしまって・・・。